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はじめに
不倫慰謝料の話に限りませんが、交渉をして相手と合意に達し、金銭の支払いが約束されると、そのことを証拠として残すために示談書や合意書と言われるような書面を残すことは重要なことです。
配偶者が不倫をしていて、不倫相手に対し慰謝料請求を行い、不倫相手との話し合いによって不倫慰謝料を支払ってもらうことになったときも、示談書(合意書)を作成することで、約束が破られた時に備えておくことが必要です。
今回は、不倫慰謝料請求において、示談書(合意書)の効果や記載内容について解説します。
示談書とは
示談とは、何らかの争いが生じた問題について当事者間の話し合いによって解決することをいいます。
示談で約束した内容を記載し、何らかの法的効果を発生(または不発生を確認)させ、後々の争いを未然に防ぐために作成するものが示談書です。
争いが解決したことの証明にもなります。
示談書に両方の当事者が署名することで、記載された約束事はお互いに守らなければならない義務を負います。
なお、示談書(合意書)を公正証書として作成することもあり、特に慰謝料を分割払いするときなどにメリットが大きいですが、公正証書でない私文書として当事者の署名・押印で示談書も当然有効で、手間や費用の問題からこちらを作成することも多いです。
この記事では、特に断りがない場合、公正証書ではない示談書の作成を前提としています。
不倫慰謝料請求での示談書の法的効力
(1)金銭支払いに関する条項
示談書に、例えば「100万円を支払う」という記載がある場合には、子の記載に法的効力(拘束力)があります。
示談書に記載した内容は、当事者間で契約した内容の証拠です。
法律の理屈だけで言えば、示談をしなくても不倫が行われた時点で、慰謝料の請求権・支払い義務は発生しています。
しかし、その慰謝料を支払うのかどうか、支払うとしていくら支払うべきか、本来当事者間で話し合って決めるべきことです。
話し合いがまとまらない場合には、裁判を起こして裁判所に決めてもらうことになります。
しかし、話し合いの結果、示談書に「100万円を支払う」と記載した場合は、当事者間でその旨の合意をしたということです。
いったん合意が成立すると、新たに合意をし直さない限り、双方がその内容に縛られます。
したがって、不倫をした側は「やっぱり支払いたくない」と思っても100万円を支払う義務がありますし、慰謝料請求をした側は「やっぱり200万円を支払ってほしい」と思っても100万円を超える請求はできないことになります。
(2)再び不倫しないことを約束する条項
例えば妻と夫の不倫相手が示談書を取り交わすとして、「二度と夫と不貞行為をしないことを誓約する」と記載したとしたら、この部分は法律的にはあまり意味をもちません。
まず、第三者(不倫相手)が夫婦の一方と不貞行為をすることは、貞操権または夫婦関係の平穏という法的に保護される権利・利益を害するもので、不法行為にあたるものです。そのため、示談書に記載が有ろうが無かろうがやってはいけないこと、やってしまった場合には損害を賠償するべきものになりますので、示談書に記載されているかどうかで差が出るものではありません。
さらに、このような示談書の記載が有っても無くても、不倫しないことを強制する法的手段はありません。
もっとも、このような誓約をさせたうえで、「違反した場合は〇〇円の違約金を支払う」と定めれば「損害賠償の予定」といって、不貞行為があったことを立証さえすれば、その金額の支払いを受けることができます。この場合でも、不貞行為があったことは違約金を請求する側で立証しなければ、違約金の支払い義務が生じないことには注意が必要です。
不倫慰謝料の示談書に書くべき内容
それでは、示談書にはどのような内容を書くべきなのかをみていきましょう。
ここでは、公正証書ではなく、当事者間で作成する普通の示談書を想定していますが、公正証書にする場合も実質的な内容となるのは以下で説明した部分で、これに強制執行その他の技術的な記載が追加されるものだと考えておいてください。
(1)タイトル
タイトルに決まりはありませんので、自由に決めてかまいません。
特にタイトルがなくても法的には問題ありません。
弁護士などが作成する場合には、「合意書」や「示談書」とタイトルをつけることが多いです。
(2)不倫した事実
本文では、まず「不倫した事実」を明記します。
重要なのは、不貞行為をしたことを(当事者、時期、場所などを含めできるだけ具体的に)明記することです。
不貞行為とは、配偶者以外の者と性交渉を持つことをいいます。ポイントとしては「不貞行為」または「性交渉を持った」という言葉を使って、慰謝料の支払い対象となる不倫があったということをはっきりと書くべきです。
(3)慰謝料の額
次に、慰謝料の額を具体的に明記します。
曖昧な記載ではなく、例えば100万円を支払ってもらう約束をしたのなら「100万円」とはっきり明記しましょう。
(4)慰謝料の支払い方法
慰謝料の支払い方法についても、①いつまでに支払うのか、②一括払いか分割払いか、③手渡しか振り込みか、といったことを明確に記載しましょう。
分割払いの場合は、何年何月から何年何月まで、毎月何日にいくらを支払ってもらうのかを明記します。
振り込みで支払ってもらう場合は、振込先口座の銀行名・口座の種類・口座番号・口座名義を書いておいた方が支払時の余計な連絡や万が一のトラブルを避けることができます。
(5)求償権の放棄
配偶者と離婚をするかどうかなど状況にもよりますが、もし離婚しない場合で配偶者に負担を負わせたくないという場合には、「不倫相手は求償権を放棄する」という旨も示談書に書いておきましょう。
不倫の慰謝料請求では、配偶者と不倫相手が共同不法行為者となり、連帯してあなたに対して慰謝料を支払う義務を負います。
例えば、あなたに対する慰謝料額が200万円だとした場合、不倫相手があなたに200万円を支払えば、不倫相手は配偶者に対して100万円(2人で負担すべき200万円を1人で支払ったため、1人分の負担割合100万円)の返還を請求することができます。これが求償権というものです。
このような請求を防止するためには、不倫相手の支払義務を最初から100万円にとどめて、配偶者に対する求償権を放棄してもらうことを明記する必要があるのです。
(6)今後不倫関係を継続しないことの誓約
不倫相手が配偶者との不倫を終了することと、今後は連絡を取り合わないことの約束について書きましょう。
通常は「今後、一切の接触をしない」と書きますが、仕事などでどうしても顔を合わせる場合は、「仕事上の必要性がある場合を除いて」という文言を加えます。
配偶者と離婚せず婚姻を継続する場合には、約束に反して接触した場合の違約金についても記載しておくほうが良いでしょう。
違約金は、法外な金額を記載すると公序良俗に反するとして無効とされる恐れがありますので、不倫慰謝料の相場の範囲内の金額(数十万円~200万円程度)とした方がよいです。
(7)後々のトラブルを防ぐための条項
示談書には通常、「この他には今後、お互いに一切の請求をしません」という条項(「清算条項」といいます)を入れます。これによって、後々のトラブルを防ぎます。
示談書作成とその後
示談書は、交渉がまとまった際に、作成されるものですが、交渉でまとまった内容について、自分と相手の認識が合致しているかを1つずつ確認していくことが大切です。
その後、示談書の文面を作成し、示談書案ということで相手に確認してもらって、再度、内容に間違いがないか確かめましょう。
ここで問題がなければ、示談書に署名・押印をもらって終了となります。
なお、普通は全く同じものを2通作成し、自分と相手方とで1通ずつ保管することになります。
その後、相手から慰謝料の支払いが約束通りあれば、すべて解決となります。
慰謝料支払の約束が破られた場合、相手に督促し、それでも支払いがない場合、示談書に記載の金銭(合意金)の支払いを求めて裁判を起こすことになります。
この裁判では、この記事で解説してきたような内容が明確に記載された示談書があれば、それに基づく法的な支払い義務は示談書を作成した時点で確定していますので、示談書のみを証拠として提出すれば十分であり、もう不倫の有無などを問題にして立証したりする必要はありません。
他方で、慰謝料の支払いについての条項ではなく、二度と不貞行為をしないという誓約をする条項への違反があった場合には、上でも述べた通り、2回目の不貞行為について立証をする必要があります。
まとめ
配偶者の不倫相手と慰謝料支払いについて話がまとまった際には、示談書(合意書)を作成しておくことは、慰謝料の回収や今後のトラブル防止のために必要なことです。
そのためには、上で解説してきたような適切な書面を作成する必要があります。
自分で作成していくのが難しいと感じた場合は、お気軽に弁護士までご相談ください。