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はじめに
「求償権」とは普段聞きなれない言葉ですが、不倫慰謝料請求をする場合、された場合には問題となることが良くあります。
簡単にいうと、不倫相手が相手の配偶者から慰謝料請求されて慰謝料を払ったあと、相手(不倫していた既婚者)に対し払った慰謝料の一部を負担してくれと求めることが出来る権利のことです。
ここでは、なぜそのような権利が認められるのかと、どのような問題が生じるのか、問題への対処法を説明していきます。
そもそも求償権とは何か
いきなり「求償権」といわれても、何のことかわからない方が多いでしょう。まずは「求償権」とは何か、簡単に理解しましょう。
求償権とは、連帯債務者が自分の負担部分を超えて払ったときに他の連帯債務者へ超過部分の支払いを求める権利です。
連帯債務とは、債務者全員が全額の支払い義務を負う債務のことをいいます。連帯債務者というのは、それぞれが債権者から支払い請求をされたら全額の支払いをしなければなりません。つまり、連帯債務者が2人いたとしても、請求された人が債務額の2分の1ではなく全額を支払わなければならず、「他の連帯債務者へ請求してほしい」といって支払いを(2分の1の分であっても)拒絶できないのです。
ただし、連帯債務者同士の間では負担部分(負担割合)があります。たとえばAさんとBさんが300万円の負債について連帯債務を負う場合、Aさんの負担部分が150万円、Bさんの負担部分が150万円などとなります(あくまで例ですので、連帯債務者2人の場合に必ず2分の1になるというわけではありません)。
そうすると、1人の連帯債務者が自分の負担部分を超えて支払いをしたら、他の連帯債務者の負担部分を払ってあげるのと同じになります。そこで他の連帯債務者へ、その人の負担部分に相当するお金の返還請求ができるのです。その権利が「求償権」です。
上記のAさんとBさんのケースの場合、Aさんが債権者へ300万円の負債全額を支払ったら、Bさんの負担部分である150万円の求償請求が可能となります。
不倫問題における求償権
では不倫慰謝料請求において、求償権はどのような関係があるのでしょうか。
まず、不倫は法律上「共同不法行為」と評価される行為です。配偶者と不倫相手のふたりが共同で、不倫をされた側の配偶者の権利利益を害するからです。
そこで不倫をした配偶者か不倫相手のどちらかが、多めに慰謝料を払った場合には、他方へ求償権を行使して負担を超える部分の返還請求ができます。
不真正連帯債務の負担割合は必ずしも2分の1ずつではありません。個別の事案ごとにふたりの責任の大きさによって決まります。たとえば男性側が積極的で年齢も高く、女性側が受け身で若く収入も低いなどの事情があれば、男性側の負担割合が3分の2、女性側の負担割合が3分の1などとなる可能性もあります。
具体例を挙げて考えていきましょう。
夫が不倫して、奧さんが不倫相手の女性に慰謝料300万円請求したとしましょう。夫の負担割合と女性の負担割合がそれぞれ2分の1の場合、奧さんから請求を受けた女性が300万円を払ったら、その人は夫へ150万円(夫の負担分)の求償請求が可能です。するといったんは300万円を払っても、最終負担額は150万円になります。
求償権があることによって生じる効果
不倫慰謝料請求をする側からすると、求償権があることによって、不倫相手にだけ慰謝料請求をするつもりだったという場合に、不倫をした配偶者にも想定外に負担を負わせることになります。
不倫をした配偶者からも離婚協議の中で慰謝料を取ろうと考えていた場合や、逆に婚姻を継続して同一家計を維持するつもりだった場合などに不都合が出てくるものと思います。
逆に、不倫慰謝料を請求された側としては求償権を行使することで、最終的な慰謝料負担額を大きく抑えられる可能性があります。
求償権の放棄
求償権は民事上の権利ですので、放棄することが可能です。
したがって、不倫慰謝料請求をしている場合、和解(示談)の内容として、不倫相手に対し「求償権を放棄してほしい」と要求することも可能です。
求償権を放棄してもらうと、不倫相手が全額支払っても配偶者に求償請求できず、全額が不倫相手の負担とすることができます。
逆に、不倫慰謝料請求を受けている立場からすると、求償権を放棄することで慰謝料が全額自己負担になるので、放棄の判断は慎重に行う必要があります。
配偶者への慰謝料請求
求償権の放棄では、「不倫についての慰謝料の全額を不倫相手が負担する」ということに留まるので、夫に対しても離婚協議の中で不倫慰謝料請求をするつもりだったという場合に、夫からの「不倫についての慰謝料は不倫相手が全額支払い済である」という主張を封じることが出来ない可能性があります。
そういったことが無いように、配偶者へも不倫慰謝料請求をするつもりの場合は、不倫相手への慰謝料請求時に配偶者へも慰謝料○○円を請求予定であることを明示したり、配偶者へも同時に慰謝料請求(不倫についても部分だけでも)をしたりするといった工夫をすることが考えられます。
例えば、不倫による慰謝料が300万円と見積もられる場合に、不倫相手と不倫をした配偶者に150万円ずつの請求を行うことが禁じられているわけではありません。不真正連帯債務の場合、連帯債務者に全額の請求をできるというのは債権者の利益のために設けられている規定ですので、債権者側で労力やリスクを取って各個に請求することも可能だからです。
不倫をした配偶者との関係も含めて総合的な方針を立てることが必要
不倫慰謝料請求における求償権は、不倫慰謝料が請求者と不倫相手、不倫をした配偶者の3面関係であることを象徴しています。
不倫慰謝料請求をする側とすれば、不倫をした配偶者との関係をどうするのか(離婚するのか、ゆるして関係を継続するのか。)考えておく必要があります。
もし婚姻を継続するなら、不倫相手に求償権の放棄を求めることも選択肢になるでしょう。もちろん、婚姻を継続するにしても、それは夫の身から出た錆とみて不倫相手の求償権には触れないという考え方もあるでしょう。
いずれにしても、正確な知識と見通しの下に、慰謝料請求を考えていくことになります。
まとめ
求償権というただでさえ聞きなれない言葉が絡むと、単に不倫相手から慰謝料を取るという話にとどまらず、不倫をした配偶者との関係も含めて様々な検討を行う必要が出てきます。そういった場合には、弁護士に相談して、正確な知識や見通しを持ったうえで方針を決めることが大切になっていきます。
悩んだ場合には、一度弁護士に相談されることをおすすめします。